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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)226号 判決 1989年9月19日

原告

昭和貿易株式会社

被告

田中功

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が、昭和62年10月8日、同庁昭和61年審判第14481号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「籾殻等の収納袋」とする発明(以下「本件発明」という。)についての特許権者(昭和52年9月9日の実用新案登録出願(昭52―122188号)(以下「原出願」という。)から昭和53年3月25日に分割出願(昭53―38544号)し、昭和56年7月17日に特許出願(昭56―112754号)に変更出願し、昭和58年7月25日に特許第1157904号として設定登録されたもの。以下「本件特許」という。)であるところ、原告は、昭和61年7月2日、被告を被請求人として本件特許を無効にするについて審判を請求した。

特許庁は、右審判の請求を同庁昭和61年審判第14481号事件として審理した結果、昭和62年10月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をなし、その謄本は同年10月26日原告に送達された。

二  本件発明の要旨

籾摺機などのダクトから風送排出される籾殻等が通過し得ない目巾の網地で袋主体を構成し、該袋主体1の少なくとも一方の側縁部3上方に、上記排出ダクト9が挿通可能な側縁開口部2を設け、この側縁開口部2と袋主体1の上縁部6に設けた上縁開口部7とをそれぞれフアスナー4、5により開閉可能としたことを特徴とする風送籾殻等の収納袋

(別紙図面(一)参照)

三  本件審決の理由の要点

1  本件特許の出願ないし登録までの経過は、前一項記載のとおりであり、本件発明の要旨は、前項記載(特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりである。

2  無効審判請求人(原告)の主張する無効事由

原出願の明細書、図面より明らかなように「袋主体の側縁開口部と上縁開口部とを利用して排出ダクトに空袋を懸吊しておく」という技術思想は原出願の出願時には全く開示されていないから、考案説を採用する現行法において分割出願に係る考案と原出願に係る考案とはその作用効果を全く異にする。分割出願の要旨とする考案は、原出願の当初の明細書又は図面に記載されたものではない。

(a) してみると、分割出願は実用新案法第九条において準用する特許法第四四条の規定に違背してなされたものであるから、その出願日は原出願の出願日まで遡及するはずがなく、この分割出願を更に特許に出願変更した本件特許の出願日も原出願日まで遡及することにはならず、その特許性の判別は分割出願の実際の出願日(昭和53年3月25日)を基準としてなされるべきである。しからば、右分割出願の実際の出願日前に出願された先願(昭和53年3月8日出願に係る昭和53年実用新案登録願第29798号・実開昭54―134116号公報)(以下「先願」といい、その考案を「先願の考案」という。)が存在し、かつ後述するように本件発明と先願の考案とは同一であるから、本件特許は特許法第三九条第三項の規定に違背してなされたものであつて、同法第一二三条第一項第一号により無効とすべきものである。

(b) また、本件特許の出願日が繰り下がる結果、本件発明は特許法第二九条の二にいう発明に該当し、同法第一二三条第一項第一号により無効とすべきものである。

3  本件審決における無効事由の要約とその判断

(一) 審判請求人(原告)が原出願と分割出願を対比して主張する無効事由の要点は、次のとおりである。

① 原出願において、その図面には、「袋の上縁はその全長に亙つて縫着された」状態だけが図示あるのに対し、分割出願において、その図面には「袋の上縁に開口部を設けた」点が明示されている。

② また、排出パイプへ袋を吊り下げるに当たり、原出願においては、「袋の上部両側に設けた開口部を利用した」ところだけが図示されているのに対し、分割出願においては、「袋の側縁部の一方に設けた開口部と上縁に設けた開口部を利用する」点が明記されている。

③ 原出願においては、「袋主体上縁に設けた左右一対の吊掛具5、5が両方とも懸吊桿8に挿通された」ところだけが図示されているのに対し、分割出願には、「袋の上縁に設けた左右一対の吊掛具8、8のうち(図では右側)の吊掛具8のみが懸吊桿10に懸吊され、もう一方(図では左側)の吊掛具8は懸吊桿10に懸吊されていない」状態が図示されている。

④ また、明細書において、原出願には、「排出ダクトに挿通して多数の袋を串差し状にするには、袋の上部両側に設けた開口部を利用する」のみの記載しかないのに対し、分割出願には、「袋の上縁にも開口部を設け、排出パイプへ袋を吊り下げるに当たつては袋の側縁部の一方に設けた開口部と上縁に設けた開口部を利用して行う」点が明記されている。

右の①ないし④の対比から明らかなように分割出願の要旨とするところは、原出願時において考案者の頭の中には全くなかつたといわなければならない。

(二) 本件審決の判断

(1) 分割出願の願書、明細書、図面及び本件発明の公告公報によれば、本件発明の要旨とする構成は、悉く分割出願の明細書と図面に記載されていることが認められる。すなわち、分割出願の明細書の記載及び第1図によれば、収納袋は、籾殻を通過させないで空気を通過させる程度の適宜の目巾の網地によつて構成された袋主体1の上方の両側の側縁部3、3に側縁開口部2、2を、上縁部6に上縁開口部7を設け、夫々の開口部にフアスナー4、4、5を縫着してなるもので、各開口部はフアスナーにより開閉可能にされているものと認められる。

請求人(原告)は、原出願の図面には「袋の上縁はその全長に亙つて縫着された」状態だけが図示してあるのに対し、分割出願の図面には「袋の上縁に開口部を設けた」点が明示されていると主張(前記①参照)しているので、原出願の願書、明細書、図面をみると、図面(第1図、第2図)については請求人主張のとおりであるが、原出願明細書の第二頁第一〇行ないし第一五行には、「1は適宜な目巾の網地によつて縫製された袋体、2、2'は主体両側の上方に対設され一定の開口量を有する口縁、3、3'は上記口縁2、2'に沿つて縫着されたフアスナー、更に4は主体1の下縁若しくは上縁開口部4'を開閉自在とするフアスナーである。」と記載されており、袋主体1にはその下縁に開口部を設ける場合とその上縁に開口部を設ける場合のあることが明記されているから、分割出願の明細書及び図面(第1図)に記載される構成の収納袋は、原出願明細書に記載されていたものと認められる。したがつて、原出願明細書の前掲の記載を無視して、その第1図のみをみての請求人(原告)の主張は当を得たものではない。なお、請求人(原告)のその余の主張(前記②③④)は収納袋の使用方法ないし使用態様に基づくものであるところ、分割出願の考案(及び本件発明)は、収納袋の形状ないし構造に関するものであつて、原出願明細書に記載されているものであり、収納袋の使用方法を限定するものではないから、その使用方法についての明細書及び図面の記載が請求人(原告)主張のとおりであることは認められるにしても、これをもつて請求人(原告)の主張を認めることはできない。

以上のとおりであるから、上記分割出願は適法になされたものであり、実用新案法第九条第一項の規定により準用する特許法第四四条第二項の規定により、上記原出願の出願日である昭和52年9月9日に出願したものとみなされる。したがつて、上記分割出願(実用新案登録出願)を適法に特許出願に変更したと認められる本件特許出願も、特許法第四六条第五項の規定により準用する同法第四四条第二項の規定により、上記原出願の出願日である昭和52年9月9日に出願したものとみなされる。

(2) そして、本件特許出願が昭和52年9月9日に出願されたものとみなされる以上、請求人(原告)は本件発明の先願に係る考案が記載されているとして提示した実願昭53―29798号の出願は、その出願日が昭和53年3月8日であることからして(本訴甲第一一号証参照)、本件特許出願の出願前に出願されたものとは認められない。そうすると、この出願は特許法第二九条の二に規定される「他の実用新案登録出願」とは認められず、また同法第三九条第三項に規定される「実用新案登録出願」とも認められないから、本件発明と上記出願の考案を対比するまでもなく、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。

四  本件審決を取り消すべき事由

本件審決の1ないし3(一)の摘示は認めるが、同3(二)の判断は争う。本件審決は、原出願からの分割出願(実用新案登録出願)が適法になされたものとの誤つた認定判断をしており、これが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。

1  本件発明の構成上の特徴

本件発明は、特許請求の範囲に記載されたとおりの構成を採用することにより、「籾摺機から放出された風送流は、袋1の網目より順次排出されるが、その網目に遮られる籾殻は周囲に飛散することなく確実に袋主体内に収容できて、従来、問題とされていた籾摺公害を解消し得る上、予め、多数の袋主体をダクトに串差し状に串着させることによつて、袋の交換が簡単、かつ迅速に行えるものであるから、その都度籾摺機を停止する必要がなく、補収作業が連続的に行えるなど、従来の籾摺処理に比べて、公害の排除並びに能率向上に顕著な効果が齎らされる」という効果を奏するもの(甲第二号証・昭52―33221号特許公報、以下「本件公報」という。第四欄第八行ないし第一八行)である。かかる効果を奏する本件発明の構成上の特徴点は、風送籾殻等の収納袋の構成として、袋主体1の少なくとも一方の側縁部3の上方と上縁部6とに開口部2、7を設け、両開口部2、7をそれぞれフアスナー4、5により開閉可能とした点にある。本件発明において、このように、一つの袋主体1に側縁開口部2と上縁開口部7とを設けたのは、これら各開口を一本の排出ダクトに挿嵌して順次多数の袋主体1を串差し状に串着(以下「斜め串差し」という。)しておくことにより、籾殻の完全収納と捕収作業の高効率化を計ろうとしたからに外ならない(本件公報第二欄第四行ないし第一〇行、第三欄第六行ないし第八行)。なお、原出願(実用新案登録出願)の出願日である昭和52年9月9日以前においては、排出ダクトに空袋を吊り下げておくという技術的思想は全く見られず、斜め串差し方式は当時の籾殻処理技術として前例を見ない画期的なものであつたと思われる。

2  原出願(実用新案登録出願)に係る考案の構成上の特徴

原出願の出願当初の明細書又は図面(甲第七号証)によれば、原出願に係る考案の「実用新案登録請求の範囲」には、「適宜な目巾の網地からなる袋主体の上方両側に一定の開口を有する口縁を対設しその各口縁をフアスナーによつて開閉可能とする一方、主体の上縁両側に吊掛具を対設せしめたことを特徴とする籾殻等の収納袋」と記載され、このような構成により、原出願の考案は、分離された籾殻等が周囲に飛散することなく確実に袋内に収容されるとともに、予め、ダクトに挿通保持された多数の袋主体のうち、籾殻が充満してダクトから取り外すべきものと次の袋とを同時に移動させることによつて通常機械の駆動を停止して行われる袋も交換にも籾殻機の駆動を中断させることなく連続的に作業が行え、しかも籾殻が充満しダクトから引き外された袋はフアスナー3'を閉止するだけで自由に運搬ができる一方、収納された籾殻を排出する場合にフアスナー4を開放すればその排出が一層迅速に行えるなど従来の籾殻処理に比べて公害の排出並びに能率向上に顕著な効果を有するものである(甲第七号証第四頁第一行ないし第一四行)。原出願に係る考案において、右のように、一つの袋主体1の上方両側に開口部2、2'を設けたのは、両開口を一本のダクト7の先端から潜通せしめることにより、順次多数の主体1、1をあたかも串差し状に連装(以下「横串差し」という。)しておくことにより籾殻の飛散防止、完全収納と籾摺作業の高能率化を計ろうとしたからに外ならない(甲第七号証第一頁第一四行ないし第二頁第八行、第三頁第一行ないし第六行)。

3  原出願と分割出願との対比

(一) 本件発明の技術的思想が、前記の分割出願に係る考案の要旨と実質的に同じものであることは、分割出願に係る明細書及び図面(甲第八号証)の記述からみて明らかである。

(二) そこで、原出願に係る考案と分割出願に係る考案とを比較するに、原出願には、「袋上縁部に開口部を設け、この開口部と側縁上部に設けた開口部とを利用して排出ダクトに袋を斜め串差しする」という技術的思想は開示されていないのに対して、分割出願の明細書には、前叙にのとおり右の技術的思想に基づく使用方法ないし使用態様が記載されているところ、これらの使用方法ないし使用態様は原出願の出願当初の明細書及び図面の記述から自明なことではない。したがつて、分割出願に係る実用新案登録請求の範囲に基づく技術的思想は、原出願の出願当初の明細書又は図面の記述の範囲を逸脱したものと認められる。

後日、分割出願し、更にこれをより高度な特許出願に出願変更してまで、権利の確保を意図するような技術的思想(すなわち、斜め串差しの方式)ならば、当然、原出願の出願当初の明細書又は図面の中に多少なりとも、この技術的思想が記載されていてしかるべきである。ところが、すでに述べたとおり原出願の出願当初の明細書又は図面には全く右の技術的思想についての記載はないのであるから、斜め串差し方式について出願人は全く認識していなかつたものと解するのが妥当である。後日、出願人が分割出願してまで権利の確保を企図したのは、原出願の後において、次善の効果より遙かに優れた特異な効果を前記の「斜め串差し方式」に見い出したからに外ならない。前叙のように袋の使用方法ないし使用態様を考慮に入れた場合には、原出願と分割出願に係る考案との間に、作用効果の面で大きな差異があるのであるから、原出願の出願当初の明細書又は図面に、斜め串差しの方式についての技術的思想が開示されているか否かの認定判断は、明細書及び図面の記述全体から総合的になされるべきであり、かつ収納袋の形状ないし構造のみを捕らえて行うのではなく、明細書及び図面全体の記述から理解される技術的思想という観点に立つてなされるべきである。

右に述べたところからして、本件審決が、分割出願は適法になされたものであるとしたのは誤つた認定判断であり、分割出願について原出願の出願日である昭和52年9月9日に出願したものとみなされるとしたのは誤りである。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三の事実は、認める。

二  同四の1、2及び3(一)は認め、その余は、争う。本件審決の認定判断は正当であつて、本件審決には原告主張のような違法の点はない。

1  原告は、原出願と分割出願との技術内容の比較において、両明細書に開示された袋主体の使用方法ないし使用態様についてるる主張するが、およそ現行の実用新案法においては、分割出願が適法に認められる範囲は、原出願の出願当初の明細書又は図面に二以上の考案が存在する場合に限られているのであるから、分割に係る考案の明細書又は図面の内容が原出願の出願当初の明細書又は図面と部分的に相違するのは当然である。そして、原出願以前においては籾摺機の排出ダクトを利用して多数の空袋を串差し状に吊り下げておくという技術的思想は、前例をみない画期的なものであつたこと、並びに原出願の出願当初の明細書には「上下両側と上縁に開閉自在な開口部を備えた袋主体」(後記(c)の構成)が明示されていることなどを踏まえたうえで、原出願が、当時解決しようとしていた簡単、迅速な袋の交換という技術的課題を併せ考えれば、仮に、原出願の出願当初の明細書又は図面に使用状態に関する具体的な記述がなかつたとしても、「横串差し」も「斜め串差し」も共に排出ダクトに「串差し」するという上位の技術概念に包含されるものである。要は、分割出願に係る考案の対象である「籾殻収納袋」の構造、すなわち袋主体の一つの角を挟んで開口部が設けられている構成自体が原出願の出願当初の明細書又は図面に記載されているかどうかを論ずれば足りるのである。

2  原出願の出願当初の明細書には、「更に4は主体1の下線若しくは上縁開口部4'を開閉自在とするフアスナーである。」(第二頁第一四行ないし第一五行)として、上方両側の開口部以外に下縁又は上縁に開口部4を備えた袋主体の構成が明記されている。すなわち、原出願の出願当初の明細書には、少なくとも次の三通りの籾殻収納袋の構成が開示されていることは明瞭である。

(a) 袋主体の上方両側に一定の開口部を対設したもの

(b) 袋主体の上方両側に一定の開口部を対設し、かつ下縁にも開口部を有するもの

(c) 袋主体の上方両側に一定の開口部を対設し、かつ上縁にも開口部を有するもの

そして、分割出願に係る考案の袋の構造が、前記(c)の構成のものであることは疑う余地のないところである。したがつて、原出願の出願当初の明細書に開示された右(c)の構成を考案として分割出願したことは正に適法であり、その際に実施例として「横串差し方式」と併せて(c)の構成による「斜め串差し方式」を記載することも至極当然である。仮に、原出願当時、上縁開口部を「斜め串差し」に使用することを「出願人は全く認識していなかつた」ものとしても、前叙のとおり(c)の構成が原出願の出願当初の明細書に開示されている以上、この構成を実用新案登録請求の範囲とする分割出願の適法性を否定する根拠になるものではない。けだし、現地において該収納袋(空袋)を籾摺機の排出ダクトに多数枚串差し状に挿通して使用する場合に、上方両側の開口部を利用する(横串差し)か、あるいは上方一側の開口部と上縁開口部を利用する(斜め串差し)かは、作業者が自由に選択できる事柄であつて、何人からも制約を受ける筋合いはないからである。原告は、原出願と分割出願に係る考案の比較において、あたかも籾殻等の収納袋という物品の使用方法ないし使用態様が考案の必須の構成要件であるかの主張を繰り返すが、実用新案として保護されるのは、「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」であるから、両考案の比較に当たつても、その物品の使用時における使用方法や使用態様の差異を問題にすべきものではないのである。

右のとおりであるから、適法な分割出願であるとした本件審決の認定判断は正当なものであり、何ら違法の点はないものというべきである。

第四証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨及び本件審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  取消事由(分割出願の適否)の判断

1  まず、成立に争いのない甲第八号証によれば、分割出願に係る考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、「適宜の目巾の網地からなる袋主体1の両側縁部のうち、少なくとも一方側縁部3に側縁開口部2を設け、この側縁開口部2をフアスナー4によつて開閉可能になし、且つ袋主体1の上縁部6に設けた適宜の上縁開口部7をフアスナー5により開閉可能としてなる収納袋」であること、考案の詳細な説明の欄には、「この考案に係る収納袋の使用方法と作用効果を説明すると、あらかじめ用意された多数の袋主体1……を第2図に示すように、それぞれのフアスナーを開放して側縁開口部2及び上縁開口部7を開口し、これら側縁開口部2と上縁開口部7を排出ダクトに挿通し、順次、多数の袋主体1……をあたかも串差し状に装着しておく。」(第三頁第三行ないし第九行)との記載があることが認められる。

2  他方、成立に争いのない甲第7号証によれば、原出願の出願当初の明細書には、原出願に係る考案が、排出ダクトからの広範囲に及ぶ籾殻等の飛散によるいわゆる籾殻公害を防止し、かつ籾殻を効率よく回収することなどを目的としたものであるとした記載(第一頁第一四行ないし第二頁第二行)に続いて、「網袋の上部両側に籾摺機等の排出ダクトが挿通可能な大きさの開口部を設け、各々にフアスナーを取り付けて開閉自在な構造としたことにより叙述せる諸問題点の解消と籾摺作業の高能率化を同時に満足せしめたものである。以下、本考案の構成を一つの実施例に従つて更に詳述すると、図において、1は適宜な目巾の網地によつて縫製された袋主体、2、2'は主体両側の上方に対設され一定の開口量を有する口縁、3、3'は上記口縁2、2'に沿つて縫着されたフアスナー、更に4は主体1の下縁若しくは上縁開口部4'を開閉自在とするフアスナーである。」(第二頁第四行ないし第一五行)、並びに「叙上の構成に係る本案収納袋は、予め主体上縁の吊掛具5を別途用意された懸吊桿8に係合した後、主体口縁2、2'のフアスナー3、3'を開放してその各開口を籾摺機の排出ダクト7の先端から潜通せしめることにより、順次多数の主体1、1……を恰も串差し状に連装しておく。」(第三頁第一行ないし第六行)との記載のあることが認められる。

原出願の出願当初の明細書における右の記載からみて、その「考案の詳細な説明」の欄には、(イ)「袋主体の上方両側にフアスナーによつて開閉自在な開口部を対設し、各開口部に籾摺機の排出ダクトの先端を潜通せしめることにした構成」の収納袋のほかに、前記の「2、2'は主体両側の上方に対設され一定の開口量を有する口縁、3、3'は上記口縁2、2'に沿つて縫着されたフアスナー、更に4は主体1の下縁若しくは上縁開口部4'を開閉自在とするフアスナーである。」との記載に相当するところの、(ロ)「袋主体の上方両側に一定の開口部を対設し、かつ下縁にもフアスナーによつて開閉自在の開口部を有する構成」のものと、(ハ)「袋主体の上方両側に一定の開口部を対設し、かつ上縁にもフアスナーによつて開閉自在の開口部を有する構成」の収納袋が開示されていることは明らかである。そして、(ロ)の構成の収納袋はともかくとして、(ハ)の構成の収納袋は、(イ)の構成の収納袋が備える上方の開口部に近接して上縁にも開口部を有するのであるから、(イ)の構成の収納袋同様各開口部はいずれもフアスナーを開放して、排出ダクトの先端を潜通し得る構成のものと容易に理解でき、かつ、右のような構成を有する収納袋は、格別の説明を要することなく、実際の場においても、このような串差し状に吊り下げて使用されるであろうことが推測され得る。もつとも、前掲甲第七号証によれば、原出願の出願当初の明細書の考案の詳細な説明の項には、「収納された籾殻を排出する場合はフアスナー4を開放すれば、その排出が一層迅速に行えるなど……」(第四頁第一〇行ないし第一二行)との記載があることが認められ、これによれば、袋主体の下縁又は上縁に設けられた開口部は収納された籾殻の排出口として予定されていたことがうかがわれるが、右開口部が上縁に設けられた場合には、右に述べたように上方の開口部との位置の近接関係からみて、排出ダクトの先端を潜通する機能をも有するものと認めることができるのであり、右記載にもかかわらず、当業者もそのように理解することにさして困難なことであるとは認めがたい。

3  したがつて、分割出願に係る考案である前記認定のとおりの籾摺等の収納袋の構成はその基礎となる技術的思想、右収納袋の使用方法、使用による効果とともに原出願の出願当初の明細書に開示されているものというべきである。以上の判断に反する原告の主張は採用することができない。

4  右のとおりであるから、分割出願(実用新案登録出願)は適法なものとして実用新案法第九条第一項の規定において準用する特許法第四四条第二項の規定により、原出願の出願日である昭和52年9月9日に出願したものとみなされ、かつ前掲甲第八号証、成立に争いのない甲第二、第九、第一〇号証により分割出願を適法に特許出願に変更したと認められる本件特許出願も、特許法第四六条第五項の規定において準用する同法第四四条第二項の規定により、右原出願の出願日に出願したものとみなされる。したがつて、この点に関する本件審決の認定判断は正当であつて、本件審決には、これを取り消すべき違法の点はない。

三  以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものとし、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 裁判官 杉本正樹)

<以下省略>

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